魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 よって今私は、ディクリド様の身分の高さと目の前のお城の存在に二重に衝撃を受け、こうして馬車を降りたところで足を止めてしまっている。
 厳密に言えば、馬車に乗って城門を潜った時点ですでに敷地内、城壁の内部には侵入しているのだが……。だとしても、ここが私のような者でも勝手に歩き回ることを許される場所だなんて、どうして納得できようか。

「あの……いったい、どこをどう歩いたらよいのでしょう?」
「……言っている意味がわからんが。自由にどこでも歩けばよかろう」

 私の疑問にディクリド様は呆れたように答え、スタスタと前を歩いていった。それでも動き出すことが躊躇われ、右往左往しながら足元の石畳をちょいちょい爪先で突いていると……苦笑気味のフィトロさんが背中を軽く押してくれた。

「気持ちは分かりますが、ご心配なく。この城内にはほとんど身分で立ち入りを制限している区域はありませんよ。一部あるそんな場所も、入ろうものなら見張りの兵士がちゃんと止めてくれますから。さ、行きましょう」
「わ……わかりました」

 市井で平民として生まれたため、様などという仰々しい呼び方はしなくていいと言ってくれた親切なフィトロさんのご説明通り、そろそろと歩き始めた私には誰も注目する様子がない。どちらかというと見目麗しい彼の方に女性の視線が集中しているように思える。
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