魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 数歩先で、お城で働く人々に話しかけられているディクリド様の後を追ってゆくと、背後から元気な女の子の声が近付いて来た。

「お義兄様ーっ!」

 もしや、伯爵の妹君が帰還のお出迎えを……?
 そんな予想はものの見事に外れ、少女は私に合流を促すフィトロさんのすぐ隣で立ち止まると、その腕に手を掛ける。

「お義兄様、どうして出掛ける前にひと声かけてくれなかったのよ! 私それを聞くまで、城の中を半日捜しまわったんだから……!」
「ああ、それはすまなかった。忙しくて伝える暇がなくってね」

 ぱっちりとした瞳を持つ、快活そうな印象の少女だ。年の頃は私よりひとつふたつ年下といったところで、ウィステリアカラーの薄い紫髪を頭の後ろで結わえている。エプロンドレスを纏うその姿からして、この城で下働きをしているのだろう。顔立ちはフィトロさんとはあまり似ていない気がするが……。

「お義兄様はなにかあるたび、いっつもそれ! ちょっとは反省してちょうだい! それで、今回はなにがあったの……」

 そんな風に彼にお小言を並べて癇癪は治まったのか、次いで妹さんの視線がこちらに移る。
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