魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 まさかとは思っていたが、これからお城などというとんでもない場所で生活しなければならないことが今まさに確定してしまったのだ。連れて来てもらった手前贅沢は言えないにしろ、どこかの街の一般家庭にでも預けられて、家事手伝いなど学ぶというような、心づもりをしていたのに……。

「そうだ。ディクリド様、年も近いようですし、しばらくリラフェンに彼女の世話をさせるのはどうでしょう」
「お義兄様!?」

 そこからもどんどん話は進んでゆき、フィトロさんが言い出したことに少女が抗議の悲鳴を上げるが、ディクリド様もその提案に賛同した。

「いいかもしれんな。残念ながら、領地を管理する俺たちが始終着いていてやるわけにはいかんし、女には女同士でしか話せぬ悩みもあるはず。下働きの中にはお前たちのように苦労して育ってきた者も多いから、なにかあっても親身になって相談に乗ってくれるはずだ。頼めるか、リラフェン」
「……わかりました。御下命とあらば私にお任せくださいませ」

 少女も、城主直々の命令となれば断ることはできず、フィトロさんを不満そうに睨んだ後、私の方に向き直った。

「自己紹介をしておくわ。あたしはリラフェン・ランツ。そこのフィトロ・ランツの義妹としてこの城でお世話になってるの。あんた、名前は?」
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