魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 声音が不安定になるのを私は懸命に押し殺した。思えばこんな大きな城の城主様たちが私などにずっと構ってくれているはずもない。きっと、今後はお城の中で見かけてご挨拶する程度が堰の山だろう。

 なんとか、家でさんざん披露した作り笑顔を浮かべてみたが、心の裡は隠しきれなかったようだ。フィトロさんはにこやかに励ましをくれ、握手で不安を取り除こうとしてくれた。

「大丈夫です。リラは気の利く優しい子ですし、それに私たちも、なにかあれば相談相手くらいにはなれますから。ほら、ディクリド様もなにか言葉を掛けてあげてください」

 普段握ることのない他人の手の感触を不思議に思っていると、ディクリド様が近付き、大きな手を私の頭に乗せた。

「俺たちもお前が落ち着くまでは、なるべく様子を見に行くようにしよう。それまでに、お前がやりたいと思うことをひとつでも多く探しておくといい」
「やりたいと思うこと……ですか?」

 その言葉を素直に受け入れられず、私はきょとんとする。なぜならば、これまでの私にとってなにかをするというのは、下された命令をただこなすことに過ぎなかった。そこに自分の想いの入り込む隙間など存在せず、そう言われても戸惑うばかりだ。
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