魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ディクリド様は己の心臓の位置を指で差して言った。

「人には心というものがある。意に染まぬことをやらされ続ければそれは擦り減らされ、やがて壊れてしまう。お前だってそうだったろう……それは、他者から与えられるだけでは決して満たされぬものなのだ。自分でなにかを追い求め、手にするための努力を捧げ、掴み取る。それができて初めて、人は真に幸福を得たといえるのだと俺は思う。そして、より多くの人々にそれを実現する場所を与えるのが、この土地を預かる俺の役目だ」

 ディクリド様は片腕でマントを払うと、今も多くの人が働くこの城を……いや、地平の果てまで続くもっと広い大地を指し示し、私を諭す。

「お前は死によって、自分の命を終わらせようとした……。お前の事情を知らない誰かはそれを、逃げだと謗るやもしれん。しかし、それはもっとも辛く恐ろしい、勇気のいる選択であったはずだ。お前はそれによって、自分を取り巻く辛い環境と戦うことを選んだ。そうは考えられないか?」

(私が……戦った?)

 彼の言うことが理解できずに眉を寄せると、ディクリド様はどう伝えたらいいのか迷うよう仕草をしつつ、続きを口にする。
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