魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「俺は……お前の中に色んな強さがあると思っている。苦痛に耐える強さ、憎しみに囚われぬ強さ、人を姿形で隔てなく扱える強さ――俺は初対面の者には恐れられることが多いのでな。ともかくそれらは本来、もっと別の形で発揮されるべきもののはずなのだ。俺はその強さが、お前自身本来の望みのもとで生かされるところを見てみたい。そのために俺は、お前をここに連れてきた」
「……望み」

 ここから遠ざかりたい、消えたい、死にたい……。
 かつて私が抱いていた望みは、そんな後ろ暗い方向性のものばかりだ。でもディクリド様はそれだけではなく、私の中に異なるなにかを見いだしている……?

 自分の心を思い遣るよう私が手でそっと胸に触れると、彼はしっかりと頷く。

「そうだ。それを今は探すための期間なのだ。触れる機会の得なかった物事に触れ、多くを学ぶことできっと見えてくるものがある。時には辛いこともあるかもしれんが、お前になら乗り越えられると俺は信じる。だから――」
「やって……みます!」

 気付けば……彼の言葉に重ねるように、決意が口を突いて出ていた。
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