魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 左右からぐいぐいと詰め寄られ、ろくに応答できず真っ赤になる私を見かねて、リラフェンが女性たちを押し退け庇ってくれた。

「こらこら、あんたたちニンジンぶらさげられたお馬さんじゃないのよ。ちょっと落ち着いたらどうなの。この子ったらまだ、右も左も分かんないんだから構うのは後々。それよかさっさと食べる! 今日も仕事は腐るほどあるんだから、早く終わらせないと、後片付けの子たちも困るでしょ?」
「「はぁい」」

 すると女性陣はただちに散開、席に戻って元通り食事を続ける。見事な統率力に目を見張っていると……彼女はこちらをちらっと見て、手早く食事を片付け始めた。

「あんたもさっさと食べちゃいなさい。前はどうだったかは知らないけど、ここでそんなんじゃやってけないわ。女もたくさん食べてしっかり働く! 任されたからには、あたしのやり方でここの仕事を学んでもらうんだから、今日から一生懸命頑張んなさい」
「わ、わかりました……」

 展開の速さに目を白黒させつつも、私だってなにもせずに生きていけるほどこの世の中が甘くないことくらいは身に染みている。リラフェンに倣って給仕役の女性が配膳してくれた盛りだくさんの食事をお腹に詰め込んでいった。

(……味がする! 美味しい!)
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