魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 瑞々しく爽やかな食感のグリーンサラダに、柔らかく甘い卵のオムレツ。焼きたてふわふわのパンと温かなコンソメスープ。ファークラーテン家で供されていたろくに味付けもされていない食べ物とは雲泥の差のきちんと下味の付いた食事に、私の胸は感動で満ち満ちた。

 胃が痩せているのか、すべてを完食することはできないものの、まともな生活の幸せというものを十分に感じられた気がする。
 満足げにお腹をさする私に、リラフェン嬢はニヤリと笑った。

「食事は気に入ったみたいね。でも食べたからには精一杯働いてもらうから、覚悟しときなさい」

 彼女の迫力のある表情にこくこくと頷き……そうして、私のハーメルシーズ城での使用人としての生活が幕を開けた。しかし、大方の人が順当に予想できるくらいには、その始まりは希望に満ちた素晴らしいものとはならなかったのである……。



「んであんた……前はなんの仕事をしてたの?」

 黄金色の毛でところどころ彩られた濃いブルーの絨毯を踏みしめ、私はリラフェン嬢の後に続いて廊下を進んでいた。ふと気づいたように目の前にあるポニーテールが揺れ、彼女がこちらに振り向く。
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