魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ええと……物を作る仕事です。魔導具っていうものなのですが、ご存知ですか?」
「それくら知ってるわよ。魔法のランプみたいに、ナデナデしたら魔人やら神様やらが現れてドカンてなやつでしょ。といっても見たことなんてないけどさ。……ふ~ん、それじゃあまぁ、手先は器用なわけね。中々期待できそうじゃない」

 色々語弊がある気がしたが、ここで説明してもあまり分かってもらえない気がしたので取りあえず頷いておく。すると彼女はところどころ廊下を曲がって、お城の裏側の敷地に出た。聞こえていた微かな水音が大きくなる。

 そこでは井戸があり、今もたくさんの女性が水を汲みあげ桶に入れては、そこかしこにしゃがみ込んで平たい板でなにかをごしごし擦っていた。これだけ人数が揃うと、中々壮観な光景だ。

「それじゃ、あんたにはまずこれをやってもらおうかしら」

 彼女が私にまずさせようとしていたのは、つまるところ洗濯のようだった。ここは城内で働く大勢の人たちの衣服を綺麗にする洗濯場(ランドリー)なのだろう。種類別の衣服が籠の中に山と積まれて収まっており、リラフェン嬢はお城の壁に立て掛けてあった大きな桶をひとつ取ると井戸から水を汲み、私に洗う前の衣服を取ってこさせた。

「あっちに粉石鹸が置いてあるから、それを水に溶かして服を放り込んで、後は汚れが取れるまで擦る。簡単でしょ? 今日ここに来たばっかのあんたには打ってつけの仕事だと思わない?」
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