魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「あっ……と、取れちゃいました! すみません!」
「ちょっと! なんでそんな変なところを持ったのよ!」

 私はどうやら衣服に縫い留めてある大粒のボタンを掴んで引っ張ってしまったらしく、盛大な音を立てて千切れた糸が、無残に垂れている。

「ああもう……仕方ない。それは私が直しとくから、次のをやって」
「すみません、すみません……」

 リラフェン嬢は頭を抱えながら、裁縫セットをエプロンのポケットから取りだすと、糸を歯でプチンと切って応急処置を始める。そのうちに私は次の衣服に取り掛かったのだが……。

「――ちょっと、強くこすり過ぎ! 穴が開いちゃったじゃない!」
「――あーっ、色の濃いものと白いものは一緒に洗っちゃダメ! 移るから!」
「――石鹸の入れ過ぎなのよ! 泡が溢れてる! あんた自分の服まで洗う気!?」
「――今なんで、洗い終わったやつを石鹸水に入れた!? ただの二度手間になるでしょうが!」

 丁寧に何度も教えてもらっているのに、なぜかすべてがうまく行かずにその都度途中でストップがかかり、結局ひとつもまともな完成品はできないまま、その日の洗濯は終わってしまった――。
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