魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)


 それから――お昼の休憩を経て午後。

「洗濯をあそこまでできない人間は初めてだわ……中々手こずらせてくれるじゃない」
「恐縮です……」
「褒めてないからね。とりあえずあれはもういいから、次は掃除をやりましょう」

やや疲れた様子のリラフェン嬢は、私を城内の客室へと案内する。
その手に携えられているのは、雑巾を駆けた木製の手桶と、布の端切れを組み合わせて作られたはたき。私はモップと箒を持たされている。

「いい? 次は部屋のお掃除よ。汚れは上から下へ落ちるから、まずは壁や天井の埃落としと窓拭きをする。そうしてから、テーブルや椅子なんかの調度品を拭きあげて、最後に床掃除して終了よ。部屋にはいろんなものがあるから、くれぐれも注意すること」

 そこらにある壺なんかでも割った日にゃ、月のお給金が軽く飛ぶからね――などと脅かされ、びくびくしながら私ははたきの柄を持たされた。

 リラフェン嬢は掃除の範囲を軽く説明すると、桶の水で雑巾を絞り、窓拭きに掛かり始めた。その表情に余裕はなく……食事の前にも私を置いてどこかに姿を消していたし、あらかじめこなさなければいけないノルマのようなものがあるのかもしれない。
< 65 / 100 >

この作品をシェア

pagetop