魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 でも彼女は、できなかったことに関して叱りはしても、その後一切感情的な姿を見せなかった。もしこれがファークラーテンの家だったなら、食事抜きやきつい折檻は当たり前だった。一方的に迷惑を掛けているのに彼女がなにも言わないので、いっそ申し訳なく感じるほどだ。

(今度こそ、失敗しないようにやらなくちゃ)

 うまく……いや、せめて彼女に負担をかけないよう並程度の働きを見せようと思いながら、私は手に持ったはたきを手近な壁に当てた。舞い散る埃に片目を交互に開けながら、かって家の使用人がやっていた姿を思い出し、棒を左右に振ってゆく。

(けほっ。埃を払うだけだし、これなら……)

 なんとか最後までやりきれそうだと調子づき、動きを大きくしていった私の活躍はそこまでだった。だんだんリラフェン嬢の方へ近付いていったが、目の前にばかり集中していたため、足元になにがあるかも気づいておらず……。

「ちょっとあんた、大丈夫? ちゃんと慎重に――」

 本日の私の行動の杜撰(ずさん)さを見抜いていたリラフェン嬢の勘が働いたのか――彼女がバッと振り向く。それと同時に、恐ろしい出来事が起きた。
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