魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ――ガゴンッ!

「え……?」

 足がなにかを踏み抜くようなが真下で鳴り……爪先が水の冷たさを感じた時にはもう遅い。じゃぼっと、私の片足が桶の中の水に水没して、体のバランスがぐらりと傾く。

「い? や、あ、あ……あ―――――っ!」

 桶の縁を踏んだ足がずるりと滑り、体が後ろに傾いていく中、私は手に持つはたきを反射的にぐっと握りしめた。それがまたよくなく、はたきの先端は、丁度壁にかかっていた額縁の下端に触れ、しなりを帯びてにっこり微笑む貴婦人の絵画をぐっと持ち上げて――――。

 ――ビュオッ!

 真上へと勢いよくすっ飛ばした……!

(あーあーあーあーあ――――っ!)

 私は絨毯の上に倒れ込みながら、くるくると旋回する額縁を見上げる。それは見事な放物線を描いて……窓の方へ。
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