魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

(8)まともになりたくて

 そして翌日も、その翌日も……。

 荷物運びで道に迷っては、リラフェン嬢に迷惑を掛け……。
 炊事場で皿洗いを任されれば、洗い場を破片の山で埋め尽くし……。
 繕い物をやらされれば、指を針で刺して布を血で汚すわ、手直し分と自分の服をあちこち合体させてしまうわで……お城での初めての下働きは、すべてがすべて散々な結果に終わってしまった。

 さすがに自分の不甲斐なさに気付いた私は、初めて頂いたお休みの日に、部屋から出ることができずにベッドの上でへこたれていた。食事も喉が通る気がしない……。

(ディクリド様……。私はやっぱり、あなたの言うような人間ではないみたいです。自分の得意なことひとつ見つけられない)

 今までの人生を私は、家族の言いなりになって過ごしてきた。そこで身についた技術や知識といったら、魔導具製作に関してのささやかなものだけ。実際の生活に役立つようなものは、なにもない……。

 今はまだいい。リラフェン嬢も周りの侍女たちも、失敗を笑って受け止め、なにかにつけて私を気にかけてくれる。それは今まで失態が制裁に直結していた私にとって、なによりもありがたいことだ。
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