魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ほら、これとこれ。さっさと着る! ったく、仕事着の時も思ったけど、服の着方もわかんないだなんて、どこのお嬢様だったんだか……」
「すみません……」
「いちいち謝らなくていいから。やり方を覚えなさい」

 屋敷で人任せにしていたせいか、だらしない着こなしになる私の服を、リラフェン嬢が端から手際よく整えてゆく。きちんと手入れされているが、ところどころ赤切れや傷の目立つ小さな手。私はそれをじっと見ていた。

「あの……リラフェンさんはここへ来てどのくらいなんですか?」
「六年か七年くらい? 十の時から大人に混じって働いてたわ。ほれ、いつまでも暗い顔してんじゃないの。子供にだってできる仕事なんだから、あんたもすぐに覚えられるわよ」

 ローズカラーのワンピースを着込んだ私を連れて、彼女は女使用人の館から、城外へと出ている乗合馬車の停留所を目指した。そこからこの領地の第一都市と目されている場所へ向けて、無料で定期便が出ているらしい。私たちは三十分ほどそれに揺られ、ぼんやりと周りの景色を眺めるうちに、その都市へと辿り着いた。

「さ、行くわよ。迷うといけないから、手は離さないで」

 年下の少女に付き従い、なにもできずに赤子のように手を引かれていく自分が恥ずかしくて仕方ないが、口答えする権利なんてあるはずもなく、私はなるべく影のように大人しくして彼女に付いて回る。
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