魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 どうやらファルメルというのが、この広大な街の名前らしい。

 さすがに国の中心である王都ペルティネと比べるとどこか牧歌的で、そこには今中央都市で流行っている魔導灯や、魔導映写板(録魔晶という、【録画(レコード)】の魔術記号を直接魔石に刻み込んで生成した記憶媒体を、専用の鏡に繋いで作ったもの)による映像広告などといった、魔術の力を使った設備などは影も形も存在しない。

「あんたの考えてること当ててあげようか。どうせ、田舎だな~とか思ってるんでしょう?」
「いえ、そんなことは……」

 私は言葉を濁す。確かにそんな気持ちがまったくなかったとは言い切れない。けれど……。

「いいところだと思います……。なんだか、忙しなくないというか……」

 風が吹くとほんのり藁や草花の香りが漂い、羊の鳴き声がしてくる。
 せせこましくなくて、牧歌的で……。
 ここでは胸に大きく息を吸い込んでも許される気がした。確かに、以前よく窓から見ていた王都の街は活気こそあったが、いつもどこか刺々しさを内包していて息苦しかった。

 誰もが先を争って上を目指し、一旦足を踏み外せばまたたくまに転げ落ちて、地の底からは決して這いあがって来れない。そんな危うい空気が、あそこではいつでも私たちを急き立てていた。ここにはそういう切迫感が、あまりないように感じるのだ……。
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