魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ふうん……? まあ、気に入ったのならよかったじゃない。さあ、あんたに必要なものを揃えていくわよ」

 リラフェン嬢は、そんな私の表情を訝しんだ後、あらゆる店に連れて行ってくれた。服飾店、雑貨屋や靴屋、装飾品店など……。しかし、商店街の店舗を軒並み踏破しても、私たちの荷物は一向に増えてこない。
 街の広場の一角に据えられたベンチに座らせ、ぜーぜー荒い息を吐きながら彼女は私を注意した。

「はぁ……あのねぇ! あんた、子供じゃないんだし、なにが欲しいかくらい自分で選びなさいよ! いい大人なんだし好みのひとつやふたつあるでしょうが!」
「すみません……」

 それには肩を縮めて謝罪するしかない。私は未だ好き嫌いという感覚があまりわからないのだ。青も赤も、甘いも辛いも、暑いも寒いも、とにかくそこにあるものを受け入れざるを得なかった私には、そもそも選択する基準というものが培われていない。肉体や精神に痛みを伴うものでなければ、なんであろうとそのまま受け入れてしまうきらいがある。本当に好みによる選択も、嫌悪による拒絶もできないのだ。

 多分、普通の人に比べて味覚や嗅覚、触覚といったそれらを判別する器官が鈍くなっているのだと思う。
 でも、そんなことを目の前の彼女に言っても気まずくなるだけだ。それどころか、リラフェン嬢はいい人だから、私のことをどうにかしてくれようとするかもしれない。これ以上迷惑はかけたくなくて、私は沈黙して俯いた。
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