魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「なによ、黙りこんじゃって……。あーもー、ちょっと頭を冷やしてくる。そこで座ってて」

 するとリラフェン嬢は額を抑えてふらふらどこかに行ってしまった。

 自分のことなのに、彼女だけに頑張らせてまともに受け答えもしないなんて、落胆されて当然だ。私も自身のいたらなさにはがっかりしている。

(……自分で自分のことを決めて生きるのって、こんなに大変なんだ)

 今も目の前で、なんでもない顔をして笑い合う街人たち。
 彼らだってこれまでいくども色んな選択を迫られ、その都度自分の頭で考えて、感覚を研ぎ澄ませ切り抜けてきたのだ。一方で私は失敗からくる罰を恐れて悩みもせず、誰かの言うがままに物事をこなしてきた。自分の気持ちからひたすら目を背け続けてきた……。

(やっぱり、私はまともな人間じゃなかったんだ……)

 どうすれば、彼らと同じになれるんだろう。
 ぼんやりと街並を眺め、行きかう人々の中に答えを求めて見ても、それは全然浮かんでこない。はっきりと普通の人との差を感じてしまった私には、あまりにも彼らの姿は眩しくて遠かった。
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