魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
(ずっと、このまま変われないのかしら……)

 決してあの家には戻りたくない……。でも……幸せに見えた外の世界ではまた違った苦労があって、挫けそうになっていた私の耳に、こちらを気遣う優しい響きが届いた。

「サンジュ」
「は……はい?」

 後ろから声を掛けられ、体を捻って振り向くと、驚いたことにそこにはディクリド様の姿があった。近くに馬が居て、わざわざ足を止めて話しかけに来てくれたのだと察する。
 私はすぐさま立ち上がって腰を折った。

「ディクリド様……ほ、本日は、お会いできましてまことに光栄にございます……!」
「堅苦しい挨拶はいい。今日は買い物にでも来たのか?」
「ええ、リラフェン嬢と一緒に……」

 だがここには今彼女はいない。わたわたと慌てた私は隣に腰を落ち着けた彼に、先程この街について思った感想をそのまま口にしていた。
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