魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ははは。それはそうだろうな」
「……へっ?」

 そんな悩みを一笑に付してしまうディクリド様。
 そして彼はつい情けない声を上げた私に当然のように同意してくれたのだ。

「お前は身なりや言葉遣いから察するに、少なくとも一般家庭の出では無かったのだろう? 考えても見ろ。そんな娘がいきなり炊事や掃除といった家事一般を任されようとするのだ。うまく馴染める方がおかしい。仮に俺がやっても、同じ結果になっただろうさ」
「ディクリド様でもですか?」
「ああ。俺はうまい飯も作れんし、部屋の片づけなどどうやったらいいか見当がつかん。仮に女たちの仕事に混ざったとて、どこかで座って見ていろ! と、怒鳴られ小さくなっているのが落ちだろうな」
「そ……そんな」

 ディクリド様が膝を抱え、邪魔だのあっちへ行ってだの言われつつ下働きの女性たちを後ろからしょんぼりと眺めている姿を想像し、つい私の口元も緩んでしまう。するとディクリド様も同じように微笑んだ。

「それでいいのだ。新しい物事を始める時、器用にできるものなどほんのごく一部。むしろ最初は足を引っ張ることの方が多いだろう。だが、誰かそのことでお前を仲間外れにしたりしたか?」
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