魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 後ろを振り向くと、少し唇を尖らせたリラフェン嬢が、こちらを見下ろしていた。

「……な、なんでしょうか……?」
「もっと驚きなさいよ、つまんない。にしても、伯もお節介よね~。おかげであたしが言うことなくなっちゃった」

 その両手には、湯気を立てた温かいミルクティーのカップが携えられていた。彼女はそのひとつを私に手渡すと、私の隣に腰を落ち着けて冷ましながら啜る。

「飲んだら? その様子だと、ちょっとは気分もマシになったんじゃない?」
「……いただきます」

 差し入れはありがたいが、いつから私たちの話を聞いていたのだろう――湯気が立つそれを少しずつ口に含みながら、リラフェン嬢の様子を窺っていると、彼女はこちらから目を逸らしたまま言った。

「あたしもフィッツお義兄様も実は……本当の兄弟じゃない、ただの孤児なの」
「えっ……」

 その思いがけない告白は、私を動揺させたが……彼女といえば小さく肩を竦めただけだ。
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