魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「もうちょっとして、大体のことがひと通りできるようになったら、あんたも自分の向いていることをひとつ選んでやっていくようにしないとね。どう? 今までやったお仕事の中で、これが楽しかったっていうのはあった?」

 リラフェンにそう聞かれ、私は戸惑いながらも真面目に考えてみる。物事を判断する時、感覚でなにもかもをすぱっと切り分けられる彼女と違い……今の私は理屈っぽいやり方しかできないから、頭に浮かんだことを言語化するのにとても時間がかかる。でも、彼女は焦らせることなく、それを待っていてくれた。

「ええと……洗濯は、汚れがしっかり取れて、干した洗濯物がたくさん並ぶと本当に気持ちがいいですね。掃除も、散らかされていた部屋が整って、出る時に見栄えよくなっていれば、すっきりしますし。お皿洗いも、洗った皿を拭きあげて、食器棚に納め終わると、満足感で一杯になります。それに裁縫をする時の、ぐっと布と糸だけに集中して周りの音が聞こえなくなっていく感覚もよいもので……」
「うんうん……それで、一番はどれなのよ?」

 嬉しそうに尋ねかけるリラフェンに、私は声のトーンを落とした。

「それは……まだわかりません」
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