魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 すべてが同率で得難い経験だった、というのが私の率直な感想だ。今までやらせてもらった仕事はどれも大変だったけれど、いざやり遂げれば達成感で、自分の成長を感じることができるものだった。しかしどれかひとつを選べと言われた時……決め手になるような、「これしかない!」というような感覚にはまだ、ついぞ巡り会えていない。
 リラフェンも、彼女らしくない難しい顔をして唸る。

「そっか……。あたしの見た限りでは、あんたってば、どちらかというとなにかを作る仕事が向いてるんじゃないかと思ったけどね。お針子とかどう? 最初はひどかったけど、ボタン付けとか繕い物とか、結構上手になったじゃない」
「そうですね。嫌いじゃないんです……でも」

 彼女の言うことは分かる。確かに自分でもその辺りは手応えがあった。
 でも同時に……刺繡をしていると、あの頃のことを思い出してしまうことがあったのだ。狂ったように働き、生活を犠牲にして魔導具を作らされていた時のことを。

 作業に集中すればするほど、いずれまた前の自分に戻ってしまうのではないかというような恐怖が生まれてきて……。

「ごめん……。別に、無理に向き不向きで決めることもないわよね。仕事なんて、一生同じことをやるかどうかもわかんないんだし、あんまり思い詰めないで好きに決めなさいな」
「――お~い、あんたたち」
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