魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ごみごみした暗がりにはなにが置いているか判然としなかったが、ドンホリさんが壁掛けフックに持ってきたランタンを吊るすと影が伸び、中の様子が明らかになる。
 リラフェンが手近にあった用途の分からない道具を摘まみ上げ、首を傾げた。

「ドンホリさん、これなんなの? ガラクタ?」
「ああ、こいつらはな……」
「――魔導具」

 それを見て私の口から漏れた呟きに反応し、ドンホリさんが片眉を上げる。

「よくわかったなサンジュ。お前さん知ってるのかい……そうだよ、こいつらは魔導具ってんだ」

 ドンホリさんはずかずかと倉庫内に足を踏み入れ、その中のひとつを抱え上げた。
 それは青ガラスでできた水差しだ。ドンホリさんはふっと息を吹きかけ埃を飛ばすと、その蓋を持ち上げて中を見せた。

「ほれ見てみぃ。こいつなんか、わざわざ井戸から汲んでこなくても好きなだけ冷たい水を生み出す道具だったって話だ。しかし、今じゃもううんともすんとも言わねぇ」

 ドンホリさんの説明によると、ここにあるのはすべてハーメルシーズ領外から流れてくる商人たちから買い取ったもので、先代の領主様がコレクションしていたものだそうだ。
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