魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 彼女も下働きの女たちのまとめ役のひとりで、もうしばらく務めあげれば城内に住まう上級侍女への昇進もあるとかないとかだから、色々忙しく、私ばかりに構ってはいられない。

「天気もいいし、外に出るか。ファルメルの街まで出掛けよう」
「は、はい……!」

 私はディクリド様の斜め後ろに付くと、自分の格好をそれとなく確かめた。今日の衣装は、清潔感のある白を基調としたアフタヌーンドレスに、瞳と同じ色合いのグレーのストールを羽織っている。あらかじめリラフェンにも相談し、身分の高い御方の手前、できるだけみっともなくないように努力はしたつもりだ。それでも、私などが辺境伯たる彼の傍に付き従って、怒られはしないかがひどく心配だ。

 一方ディクリド様は、至って普段通りの様子だ。あまり貴族らしい身なりを好まないのか、肩まで伸ばした黒髪はあくまでざっくりと櫛を通したくらいで、やや癖づいて外側に広がっている。特筆すべきはバランスの取れた長大な体格で、上品かつ地味な黒布のコートに包まれた上からでも、戦士として鍛えられあげられているのが十分に分かる。

 ある時、猛禽のように優美な金色の目がこちらを捉えた。

「慎み深いのは美徳だが、そうされると話しづらい。隣に来い」
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