魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ですが……」
「気にするな。いつも俺は皆をそうして連れ歩いている」

 強引に手を引いて隣に並ばせられ……私は従うしかなく肩をすぼめて、彼の顔色を窺いながら歩きだした。

「きょ、今日はお日柄もよく……洗濯物がよく乾きそうですね」
「そうだな」

 どうしてか、今日に限ってディクリド様の口数が少ない。機嫌でも悪いのかと不安になってきた私は、拙い日々の経験から必死に話題を探そうとする。

「私事なのですが……最近は食べ切れなかった朝のご飯も、ちゃんと完食できるようになりまして。仕事も周りの皆のおかげで少しずつ覚えて来ました」
「それはよかったな」

 しかし反応が薄く、背中に汗が薄っすらと滲むのを感じる。

「きょ、今日も、ディクリド様のお姿は素敵ですね、とっても! お支度はご自身で選ばれているのですか?」
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