魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「目立たぬよう口は出すが、ほぼ配下任せだ。それでもごてごてと飾り立てたがるので困っているが」
「そうなのですか……」

 ぽつぽつと……取り留めのない会話が一周しては途切れ、の繰り返し。
 ファルメル行きの馬車に乗り、隣り合って座った後も短文の応酬だけがひたすら続き、私は両手を握りしめながら目をぐるぐる回す。

(ど、どうしよう。この間はもう少し会話が弾んでいたのに……。思い返してみれば私、自分のことに必死で、この方のことを知ろうともしなかったんだわ。命を助けられて、働く場まで与えてもらいながら……。だから彼もきっと怒っているのよ)

 あわあわと泣きそうになりながら、今までの心得違いを後悔する私。

「なぁ、サンジュ。お前は――」「申し訳ありません! ……あっ」

 そこでせっかく話しかけてくれたディクリド様の言葉と、思わず口に出した謝罪が重なってしまう。

「すみません、すみません……! もう黙っています……」

 恥ずかしさと気まずさで、真っ赤になりながら叱責されるのをしばらく待っていると……。
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