魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 彼の言葉は、私が無意識に抱えた不安……過去を清算しないままここに来てしまったという、後ろめたい気持ちを和らげてくれた。でもそれは、同時に私が今直面している問題を正確に探り当てていて……。

「やりたいこと……」
「そう簡単には見つからないか。すべきだと思えることは……」

 私も彼やリラフェンが望んでくれたように、前を向けるようになりたい。これと思い定めたひとつのことに取り組んで、いつか、私を助けてくれる人たちの役に立ちたい。けれど、未だ明確な指針は私の心の中に生まれてこない。思い悩む私に、ディクリド様は告げる。

「すまん。自由にさせてやりたいという俺の我儘(わがまま)が、返ってお前を苦しめているのかも知れんな」
「そんなことは……!」
「いや……思ってみれば、俺自身とて、自分で選んでこの領主という仕事を引き受けたわけではなかった。先代の後釜として据えられただけだったからな……」

 遠くを見つめるようなディクリド様の瞳に、悲しい影が映る。しかし、そのことを彼は詳細に語ろうとはせず、すぐに打ち消した。

「だが、今では俺はこの地位を受け継ぐことができたことに感謝している。それは、この大地に住む民たちを守り支え、やり方次第で多くのものを与えてやることができると思うからだ。たくさんの人に恩を受けて、それをできる限りの形で返したいと、そんな気持ちで続けている」
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