笑顔になれるココア
「お待たせ致しました。
こちら、ココアと苺タルトです」
注文もしていないのに、
いきなり運ばれてきたココアとケーキ。
「えっ、これっ、頼んでっ、」
〝頼んでないです!〟
そう言おうとしたけど、
その言葉は言えなくって。
私のくちびるに右手の人差し指を当てて。
左手では、軽くメガネを上げて、
ニコッと微笑んでいる今宵くん。
その顔は、
付き合っていた時によく見ていた笑顔で。
「〜〜っ、」
その笑顔に見惚れていると。
「...............僕、店長なので、職権濫用です、
これ食べて、閉店するまで待っててください」
私の耳元で、ひっそりその言葉を落とすと。
今宵くんはその場を離れて行った。