『メガネ男子』に囲まれて

細長ノンフレ……その名は青木

 翌日の朝、元気に登校した葵、
教室に入ると席に着席する。
 前の席の四角い黒縁メガネの井上に
 「昨日はありがとう」とお礼を言うと、
右隣を向いて伊達メガネの小野田にも
 「おはよう小野田君」と声をかける。
 「おはよう浜辺さん」可愛い笑顔で井上が言った。
 「浜辺さんおはよう」伊達メガネを
整えながら小野田が言った。
 前後左右を『メガネ男子』に囲まれている葵は、
前と右隣のメガネ君とはお話が出来るようになってきていた。
 「うん、よし! いい感じ」と葵は少し
嬉しかった。
 葵はクラス替えがあった4月の時点で四人の
『メガネ男子』の分析は済んでいる。
 前と右隣の二人は特に問題はない、
一人を除いては……。
 葵の分析によると、彼女が一番苦手とする彼、
そう……後ろの席の『強面 細長ノンフレ』の
青木君だ。
 今までほとんど話したこともなく、
目も合わせたことのない後ろの彼。
 「おい、浜辺」突然、後ろから声がした。
 その声に驚いた葵は恐る恐る後ろを向いた。
 「青木君何? どうしたのかな?」
 強面の青木が言った。
 「消しゴム」と青木がボソリと呟いた。
 「消しゴム?」と葵が聞き返す。
 「消しゴム落ちたてたぞ……その、床に」
 と言うと大きな手のひらにちょこんと
乗せたピンク色の苺の形をした可愛い消しゴムを
葵の前に差し出した。
 「あ……ありがとう」と青木から消しゴムを受け取る葵。
 
 葵は思った……
青木の手があまりにも大きすぎるため、
可愛い苺の消しゴムが『野苺』のように
小さくなって見えることを……。
 細長ノンフレメガネの青木君、普段は殆ど話を
したことがない彼。
 葵は急に彼のことが知りたくなる。
 何故ならば彼が消しゴムを彼女に渡す時に葵は気がついた。
 細長ノンフレメガネの下の彼の素顔……
それは、細長のメガネで強面に見えるだけで
本当はイケメン顔であることを……。
 彼女はどうしてもメガネの下の彼の素顔を
見たくなったのだ。
 何故? どうして? 
 彼女自身もわからなかったが、
葵はクルリと後ろを向くと青木に言った。
 「青木君、メガネ少し汚れてるよ。貸して、私が拭いてあげるよ」
 と言うと自分の手を彼の前に差し出した。
 「う~ん、ん?」と青木は驚いた顔をした。
 「貸してよメガネ」とニコリと笑う葵。
 葵の突然の攻撃にフリーズした青木、
完全に思考停止状態の青木。
 前の席の井上、右隣の小野田、
そして左隣の柴田も葵の突然の行動に
驚き前を向いたまま一点を見つめる。
 個人戦の真っ只中、助っ人は来ないぞ。
 どうする青木! どうする強面青木!
『メガネ』を渡すのか? 青木~。
< 13 / 22 >

この作品をシェア

pagetop