魔王サマの偽カノになっちゃいました!
第1話
○誰もいない廊下
華子「そ、そんなっ!私はっーーーー!?!?」(華子の瞳が大きく見開かれる)
眞央がキスを落とす。
目を閉じていた眞央が目を開く。
眞央「これで契約成立な」(眞央が小さくニヤリと笑う)
突然のことに状況が飲み込めない華子。
モノローグ【平和に、ひっそりと過ごすはずの高校生活は、この魔王との契約で、一瞬にして崩れ落ちたのです…】
○朝・寮の階段
華子「遅刻しちゃう!」
急いでローファーを履いた華子(薄い色素の髪・肩より少し長い・子リスのような印象)は慌てて自分の部屋を出た。
足速に階段を降りていたが、もう少しで下に着くというところでバランスを崩す。
華子「わっ!」
(ドサドサと響く音)
華子「いたたたっ」
お尻から見事に落下し、痛む腰に軽く手を置く華子。
寮母「ちょっとカコちゃん、大丈夫!?」
何の騒ぎかと顔を覗かせたのはほうきをもった寮母さん。(外を掃除中)
華子「お、おはようございます。寮母さん…」
寮母さんは滑り落ちたままの私を見て、小さくため息をつく。
寮母「全く…ちゃんと足元見なきゃ駄目じゃない。これで3回目よ」
華子「えへへ…ごめんなさい。次はちゃんと気をつけます」
寮母「ほら、急がないと遅刻しちゃうわよ!」
華子「わああ!行ってきます!」
寮母「まあ、カコちゃんらしいといえば、カコちゃんらしいわね」
太陽がキラキラ光って雲ひとつない空の下、寮母さんは学校へ急ぐ華子の後ろ姿を見ながら苦笑いを浮かべる。
○昼休み・教室
遥「カコ、お昼にしよー」
親友の遥(隣のクラス・お団子ヘア・元気で頼りになるお姉さん的印象)がお弁当を片手に教室へ入ってくる。
教科書を片付けていた華子が顔を上げる。
華子「遥ちゃん」
(お昼を食べる場面に切り替わる)
遥「カコ、今朝もギリギリだったわけ?」
華子「えへへ…おっしゃる通りで…」
遥「全く…もうちょっと余裕もって来れないの?」
呆れたように、卵焼きを頬張る遥。
華子「昨日の夜も遅くまで読書に熱中しちゃって…」
小さく笑う華子。
女子3人組が華子の席に近づいてくる。
由依「うわー、相変わらず根暗なハナコにぴったりの趣味ですねー」
近づいてきた声に、華子がびくりと肩を揺らす。
由依を取り巻く女子「あははっ!由依、言い過ぎー!」
島田 由依(中学からの同級生・ウェーブのかかった髪・吊り目で気の強そうな印象)の声に、うつむく華子。
由依「ハナコさん、早くトイレへお帰り下さーい」
遥「ちょっと何よあんたたち!」
「キャハハッ!」と笑い声をあげて去っていく由依たち。
遥「嫌な奴ら!カコも、ちゃんと言い返さなきゃダメじゃない!」
華子「…う、うん」
華子「(私にも、そんな勇気があればいいのに…)」
【私の名前は芹沢 華子、高校生1年生。島田さんがさっき呼んでいたハナコは昔つけられたあだ名で、本名はカコ。】
【好きなことは読書。内気な性格で、自分の気持ちを口に出すのが苦手。】
【さっきみたいに何かと突っかかってくる島田さんにも、言い返せたことなんて一度もない】
遥「あ、カコ知ってる?王子また振ったんだってね。しかも相手はうちの学年のマドンナ、結城さん」
遥の声に、我に返る華子。
華子「(…王子?うちの学年に、オウジなんて名字の人、いたっけ?)」
小さく首を傾げる華子に、遥は「えっ」と声を漏らす。
遥「もしかしてカコ、王子のこと知らないのっ!?」
華子「う、うん…"オウジ"なんて名前の人、聞いたこともないよ」
遥は少しポカンとしていたが、ぷっと吹き出した。
遥「"オウジ"なんて奴、いるわけないじゃん!超イケメンで勉強もできる完璧の塊だから、みんながそう呼んでるだけ。如月くんっていうのが、本名」
華子「如月くん…?」
華子「(うーん…どっちにしろ、如月くんって人もわからないなあ…)」
遥「そういや、カコのパパママ、元気にしてる?」
華子「うん!昨日も、お父さんからの心配のメール来てたよ」
苦笑いを浮かべる華子。
【私が通う高校には寮があって、親元を離れた生徒がそこで生活している】
【私の場合、この高校に合格した後お父さんの海外転勤が決まっちゃって、私も一度はお父さんたちに付いていくって決めたんだけど…】
【私には住み慣れた場所で生活して欲しいっていう両親の希望もあって、高校の寮に住むことになった】
【お父さんもお母さんもすごく離れたところにいるけど毎日メールをくれるから、寂しくはない】
遥「まあ、カコのお父さんが心配するの、超わかる」
華子「ええっ!?」
いつもの調子で、昼休みを過ごす華子と遥。
○ホームルーム後・廊下
先生(黒縁メガネ・若めで後ろでポニーテール)「ちょっと量多いんだけど、芹沢さんに任せちゃって大丈夫?」
華子「はい。大丈夫です」
先生「職員会議が急に入っちゃって…ごめんね」
先生はどこか申し訳なさそうにしながらも職員室へ戻っていく。
係の仕事でプリントを箱に入ったプリントを準備室へ運ぶ華子。
華子「(お、重い…)」
大丈夫です、なんて言っちゃったけど、1人で運ぶには結構な重さ。
準備室へ向かう階段を降りていると、下の階から誰かがこちらに向かって登ってくるのが見えた。
黒いヘッドフォンをしている、男子。
華子「(すごい綺麗な顔立ち…)」
ちらっと見えた男子は、思わず息を呑むくらいカッコいい人だと思った。
のも束の間…
華子「きゃあ!!」
重い箱のせいで、バランスを崩して前のめりになる。
華子「(お、落ちる!)」
華子はぎゅっと目を閉じた。
○階段下
あまりに一瞬の出来事だった。
華子「(あ、あれ…痛く、ない…?)」
恐る恐る目を開ける。
華子「っ!?!?」
目を開けて視界いっぱいに映ったのは、表情を歪めている、さっきの男子。
華子「(わ、私どうなったんだっけ!?)」
よく見れば、私の下敷きなった男子の上に、私が乗っかっている状態。
華子「ご…ごごごめんなさいっ!」
華子は慌てて男子の上から体を退けて、床に座り込む。
男子が体を起こす。
華子はバランスを崩した瞬間のことを思い出していた。
華子「(もしかして、庇ってーーー…?)」
一瞬そんな考えが浮かんだが、首を振ってそれをかき消す。
眞央はそのままそばに落ちていたヘッドフォンを掴むと、ヘッドフォンの耳当て部分が切れて落ちた。
血の気の引いた顔の華子が眞央(黒髪・両耳に赤いピアスが光る)を見る。
華子「あのっ、本当にごめんなさ…」
眞央「怪我は?」
華子「…え」
眞央「怪我してないかって、聞いてんだけど」
華子「あ…大丈夫です」
眞央「そ…」
右手をついて立ちあがろうとした眞央が、手首に走る痛みに顔を一瞬歪める。
華子「あの…もしかして、手が痛むんですか?」
眞央「別にこれくらい…」
華子「保健室行きましょう!」
眞央「…は?」
華子は床に散らばったプリントを超特急で集めて箱にしまう。
眞央「おい!」
それを床に置いたまま、眞央の左手を掴んで歩き出す。