魔王サマの偽カノになっちゃいました!
第2話
○保健室・ドアの前
華子「(今日に限って、先生不在…)」
保健室に到着したはいいものの、2人は扉の前で立ちつくしていた。
『本日養護教諭不在のため、用のある生徒は職員室へ』
の張り紙が扉に貼られている。
華子「(どうしよう…先生たちは職員会議って言ってたし…)」
と、こちらを黙って見つめていた眞央と視線が絡む。
よく見れば、華子は眞央の手を握ったままだ。
華子「ご、ごめんなさい!」
それに気づいた華子は慌てて手を離し、目線を下に落とす。
眞央「……」
華子「あの…簡単な手当てしかできませんけど、私でよければ、させてくれませんか?」
眞央の顔色を伺うように聞く華子。
眞央「…好きにしろ」
華子「は、はい!」
華子「(よかった…断られちゃうかと思ったけど…)」
○保健室の中
華子「(これと、あとは……)」
ふたりきりの保健室の中で、華子は処置に必要なものを探している。
そんな華子を、先ほどからじっと見つめている眞央。(椅子に座っている)
華子「(な、なんか見られてて落ち着かない……よし、これで全部そろった)」
トレーの上にハサミや腕を固定するためのテーピング類を置き、眞央の元へと戻る。
華子「痛かったら言ってくださいね」
眞央の右手にそっと触れて、テーピングをしていく。
華子は手を動かしながら眞央のすぐ隣に置かれたヘッドフォンを見る。
華子「あの、本当にごめんなさい…。私のせいでケガさせてしまった上に、ヘッドフォンまで壊してしまって…」
眞央「…こんなの、ケガのうちに入らない。それに物はいつか壊れる。お前のせいじゃない」
どこか心地よい低い声が、2人だけの空間に響く。
華子「(表情が変わらないから、何を考えてるからわからないけど、優しい人なのかも…)」
眞央「慣れてるんだな」
華子「…え…」
向こうから話しかけてくるとは思ってもみず、華子は少し驚いたように顔を上げて眞央を見る。
相変わらず真顔だけど、まっすぐな瞳と視線がぶつかる。
華子「…私、昔からよく階段から落ちたり転んだり、しょっちゅうケガばっかりで」
昔を思い出しながら、どこか恥ずかしそうに笑う華子。
○(回想)華子の幼少期
華子『ふぇ…ひっく…』
華子のお母さん(ボブヘア・優しく、愉快な人)『カーコ、大丈夫!ほら泣かない!』
優しく華子の頭を撫でるお母さん。
華子『おひざ、痛い…』
膝からは血が出ている。
お母さん『よおし!お母さんが魔法のアイテムで、おひざの血を止めちゃいましょう!』
取り出したのはただの絆創膏。
華子『魔法?お母さん、魔法使えるの?』
お母さん『もちろん!』
華子『んっ!』
膝に絆創膏を貼られて、痛みに目を閉じる華子。
お母さん『いい?チチンプイプイ、痛いの痛いの、飛んでっちゃえー!…どう?もう大丈夫でしょう?』
華子『……まだ痛い』
目に涙を溜めたまま、お母さんを見下ろす華子。
お母さん『えぇっ!?カコ、今のは練習!次こそちゃんと魔法かけるから?いい?いくわよー!』
【慌てたようにもう一度呪文を唱えるお母さんがあまりにも面白くって…】
華子『ふふっ…あははっ!お母さん変なのー』
【いつのまにか、ほんとに痛みを忘れちゃうくらい笑顔になってた】
(回想終了)
○再び保健室の2人が映る
華子「(そんなこともあったなぁ…)」
華子「母が看護師だったんですけど、何度も手当てしてもらうのを見てるうちに、なんとなく覚えて…」
ハサミでチョキンと、最後のテープを切る。
華子「できました。痛み、少しでもマシになったらいいんですけど…」
心配そうに見る華子と、手首を動かす眞央。
眞央「…だいぶ楽になった」
華子「ほ、本当ですか!?よかった!」
ふわりと笑う華子に、眞央が目を見開く。
眞央「…昔と変わらないな」
華子「……え?」
眞央ははっとしたようにそっぽをむき、片手で顔を覆う。
華子「(顔、赤い…?)」
眞央の様子に首を傾げる華子。
○ひと気のない廊下(外は夕日)
保健室から出て廊下を歩くふたり。
眞央の後ろを華子が少し離れて歩く。
華子「(ケガのこともヘッドフォンのことも気にしなくていいって言ってくれたけど……)」
華子「あ、あのっ!」
眞央がゆっくりと振り向く。
窓から差し込む夕日に、耳元の赤いピアスがきらりと反射する。
華子「あの…お詫びといってはなんですが…私にできることなら何でもします!すぐに…は難しいかもしれませんが、壊してしまったヘッドフォンもちゃんと弁償します!」
眞央「…何でも?」
眞央が華子の言葉にピクリと反応し、何かを呟いた。
華子「わ、私にできることなら、何でも」
眞央「付き合え」
華子「……へ?」
眞央は考えるそぶりも見せることなく、ただ一言。
拍子抜けした華子はポカンと口を開けたまま、言葉の意味を必死に噛み砕こうとする。
華子「(…付き合う?付き合うって、どこかに一緒に行くとか、そういう意味?)」
華子「えと…その、どこに?」
眞央「お前、何勘違いしてる。俺が言ってるのはそういう意味じゃない」
華子「へっ?それじゃ、付き合えって、もしかして…」
【どこかに行く付き合う、意外の意味なんて…そのっ、あのっ、男の人と女の人が、付き合うってことで…それで】
ようやく言葉の意味を理解した華子は、顔を真っ赤にして眞央を見る。
華子「な、ななな何をおっしゃって」
眞央「何でもするって、お前が言ったんだろ」
華子「た、確かに言いましたけど、そういうことじゃなくて!えと、だからその、何だっけ…」
眞央「何ひとりで百面相してる」
全身から血の気がひいている華子。
華子「…だって…あの、なんでそんないきなり…?」
【私この人と喋ったの、今日が初めてだし…】
眞央「毎日毎日群がる女子が鬱陶しい。だからお前と付き合ってるように見せかければそいつらも離れる」
華子「(…うん?えと、それはつまり、女子避けのための、偽物彼女になる…ってこと…?)」
【でも確かにこの人くらい綺麗な顔立ちをしてたら、女の子にモテて当然だよね……なるほど…って納得してる場合じゃなくて…!】
華子は小さく首を振る。
眞央「俺を見ても騒がない女はお前が初めてだし、 うるさい女たちにはうんざりしてたところだ。ちょうどいい」
華子「そんな!?私お付き合いどころか、誰かを好きになったことも無いですし…」
眞央「…ふーん」
表情は変わらないが、どこか嬉しそうな眞央。
華子「それに…私たち初対面ですし…」
【何でもするって言ったのは自分だけど、いきなりそんな関係なるなんて…】
眞央「……初対面?」
眞央の低い声がして、華子はびくりと肩を震わせる。
眞央「…まあいい。けど、今更ナシにはさせねーから」
華子「そ、そんなっ!私はっーーーー!?」
手首をつかまれ、体をぐいっと引かれた。
唇に触れる、柔らかい感触に、華子は目を見開く。
【私、今何されてーーーーー】
目を閉じた眞央が、視界いっぱいに映る。
眞央「これで契約成立な。期限は無期限」
唇を離した眞央が、ニヤリと小さく笑う。
華子「い、今、き、き、キ…」(顔が真っ赤)
眞央から解放された華子は唇を軽く抑えながら、ふらふらと2、3歩後ろに下がる。
眞央「てことだから。じゃあな、セリザワ カコ」
フッと鼻で笑う眞央に、華子は寒気を覚える。
眞央は颯爽と階段下に消えていく。
華子「名前、なんで知って…」
華子は全身の力が抜けて、その場に座り込む。
眞央の黒い笑顔を思い返してーーー
華子「ま、魔王…」
ふと浮かんだものを、ぽつりと口にする華子。