魔王サマの偽カノになっちゃいました!
第3話
◯朝・華子の部屋
(夢の中・昨日の回想)
眞央にキスをされる華子が映る。
眞央『これで契約成立な』
華子「わぁぁぁぁっ!」
慌てて飛び起きる華子。
唇を軽く抑えて、キスをされたことを思い出して、華子の顔が赤くなる。
華子「(夢…じゃない…)」
【昨日のことだから、忘れるはずがない】
華子はベッドの上で小さくため息をついた。
◯昼休み・教室
遥「はあぁぁぁぁ!?偽カノになったぁ!?」
華子「しいー!遥ちゃん、声大きいよ!」
昼休み、驚きで目をまんまるくする遥と、周囲を気にするように慌てる華子。
遥「ちょ、どういうこと!?最初から最後まで全部話して!」
ガバッと身を乗り出す遥に、華子は昨日の出来事を全て話した。
遥「ちょ…なんかめちゃくちゃすぎるじゃない……」
華子「うん…でも何でもするって、私が言っちゃったわけだし…」
遥「はあ……んで、どこのどいつよ?それ」
華子「え゛っ…」
【そういえば、名前、聞いてない…】
華子「名前、聞き忘れた…」
遥「はあ!?嘘でしょ!?…もー、カコもカコで何してんのよ…」
華子「なんか、色々突然すぎて…」
【…そういえば…】
昨日のことで、華子はあることを思い出した。
『" じゃあな、セリザワ カコ " 』
あの魔王が去り際に言った言葉。
華子「(聞き間違いじゃない、よね?)」
【確かにあの時、私の名前を呼んでた……でも、何で…?】
遥「なんか、特徴くらいないわけ?」
遥の声に、華子ははっとする。
華子「うーん…すごい綺麗な顔立ちの人だなぁとは思ったけど…あっ、そういえばピアスしてた。赤い」
遥「…赤いピアスで、超絶なイケメン…」
遥の脳裏に、一瞬当てはまりそうな人物が浮かぶ。
遥「(まさかね…)」
◯帰りのホームルーム後・教室
クラスメイトの女子「芹沢さん、また明日ね」
華子「うん、また明日」
ホームルームが終わった教室で、教科書をカバンに詰めている華子。
教室内は残ってる生徒が何人もいる。
【あれから、特に変わったことはないーー】
【やっぱり、揶揄われてただけ、なのかな…】
女子たち「キャーー!」
ぼんやりとしていた華子をハッとさせるように、女子たちの黄色い声が教室から廊下まで、四方八方から響く。
華子「(な、何っ!?)」
辺りを見回す華子。
女子1「あれ、王子でしょ!?」
女子2「なんでうちのクラスにいるのっ!?」
由依「やっぱ、王子って超かっこいいー!」
【王子ーーーー…?】
なんだか、嫌な予感がする。
華子に向かって、まっすぐに歩いてくる、見覚えのあるシルエット。
華子「(な、な、な…)」
全身の血の気がひいて、真っ青になる華子。
眞央「おい、帰るぞ」
華子「何でここにっ!?」
眞央「早くしろ」
由依「如月くん、だよね?もしかして人違いしてない?こんな地味な女に用なんてないよね?」
いつもより声が高い由依に軽く睨まれ、華子は思わず視線を下に落とした。
眞央「お前には関係ない。用があるのはコイツだ」
眞央の低い声に、由依は少し怖気付く。
由依「なっ」
華子「えっ!?あのっ!」
華子の手首を掴んだ眞央は、人混みをかき分けて教室を出ていく。
◯外・住宅街
眞央に腕を引かれたまま、学校からどんどん離れていく。
華子「(こ、この人が、ほんとに王子…?みんな間違えてるんじゃ…)」
それどころではなく、華子ははっとする。
華子「あのっ、どこに向かってるんですか…?」
眞央「俺の家」
華子「ええっ!?」
眞央「学校だと邪魔が多い。いいから行くぞ」
眞央に連れていかれるがままの華子。
ふと、眞央の右手を見れば、まだ自分が手当したテーピングが巻かれているが、どこか緩んで見える。
華子「手、まだ痛みますか?」
眞央「…ほぼ痛みもない」
華子「あの、後で、そのテーピング直させてください」
眞央「…」
眞央は特に何か答えるわけでもなく、黙々と歩き続ける。
◯眞央の家(アパート)・リビングの入り口
華子「(き、来てしまった……)」
眞央「おい、いつまでそこにいる。早く来い」
玄関で固まっている華子を振り返る眞央。
華子「えと…家の人に挨拶とか…」
眞央「俺とお前以外誰もいない」
華子「あ……おじゃまします……」
恐る恐る中に入る。
(リビングへ移動)
華子「(私の部屋より綺麗、かも…)」
置かれているものが元々少ないのか、すっきりして見える。
(場面転化・テーピングを直すシーン)
【王子なんて呼ばれる男の子の家に、こんなに簡単に来ちゃったけど……】
先ほどの、由依の睨むような目つきを思い出して、華子は一瞬、手の動きを止めた。
華子「(明日、絶対何か言われるんだろうな…)」
眞央「何考えてる」
華子「えっ」
眞央を見れば、片手でネクタイを緩めて、首元が顕になっている。
華子「…できました。痛み少なかったら、もう取っても大丈夫だと思います」
華子が立ちあがる。
ふと、棚の上に置かれている、女性が映る写真が目に入った。
華子「(綺麗な人…お母さん、かな)」
目元が眞央によく似ている。
華子「えと…如月くん…は、ご両親と3人で住んでるんですか…?」
眞央「…いや。今は俺ひとりだ」
華子「……え」
華子「(それは、どういう…)」
眞央「…父さんは転勤であちこち飛び回ってて、ほとんど帰ってこない。母さんはもういない」
華子ははっとして、手をぎゅっと握りしめる。
【私、無神経に、なんてこと聞いちゃったんだろう…】
華子「…ごめんなさい、私…」
と、眞央が華子に近づく。
そして俯く華子の顎に手をかけると、半ば強引に顔をあげさせた。
眞央「なんでお前がそんな顔する必要がある」
しゅんとした表情の華子に眞央が聞く。
華子「私、如月くんの気持ちも全然考えないで…ごめんなさい」
眞央「別に、お前が謝る必要なんてない。俺が勝手に答えただけだろ」
華子「(か、顔、近いっ!)」
眞央「おい、こっち向け」
華子「む、無理ですっ」
眞央が小さく舌打ちをする。
華子「(ひぃぃっ!)」
そのままぐいっと顔を眞央の方に向けさせ、鼻同士がぶつかりそうな距離に華子の顔が目を見開く。
眞央「お前、さっき俺のこと苗字で呼んだな。名前で呼べよ、"眞央"って」
華子「もっと無理!」
【"魔王"なら、いくらでも呼べるけど】
【男の子のこと、呼び捨てになんて呼んだことないよっ】
眞央「早く呼べよ、"カコ"」
眞央に名前を呼ばれて、小さくドキッとする華子。
【やっぱり、私の名前知ってるんだ……】
華子「あのあのっ、なんで私の名前、知ってるんでしょうか…」
目を逸らしながら尋ねる華子。
眞央「………」
眞央「俺のこと名前で呼んだら教えてやる」
眞央はニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。
華子「そ、そんなずるいです!」
眞央「3つ数えるうちに呼べよ。3…2…」
華子「っ……ま…お…く、んっ!?」
いきなりキスをされ、華子は一瞬たじろぐが、力強く眞央の体を押し返す。
華子「な、な、何するんですかっ!?」
眞央「別に、2回目だろ」
華子「わあぁぁっ!い、言わないでくださ、わっ!」
眞央の口を慌てて塞ごうとした華子だが、足元に置いてあった自分のカバンに足が引っかかり、眞央を巻き込んで、近くのソファに倒れる。
眞央の上に重なって倒れるのは2回目だ。
【な、な、何してんの私っ!】
華子「ごめんなさっ」
眞央「…お前ってさ、人押し倒すのが趣味なわけ?」
華子「ち、違いますっ!今すぐどくのでっ…!?」
退こうとしたところで、眞央がぐっと腰に手を回す。
眞央「俺はこのままでもいいけど」
華子「な、何言ってるんですか!?わ、私もう帰りますっ!お、お邪魔しました!」
顔を真っ赤にした華子は慌てて体を起こして、カバンを片手に、眞央の家を逃げ出すように後にする。