ショパンの指先
「いや。ショパンコンクールはポーランドで行われるからね。僕はその当時二十代だったし、お金もなければクラシックに興味もなかった。でも、ショパンコンクールで圧倒的な実力で優勝したブーニンは当時社会現象にまでなった。それでブーニンの演奏をテレビで観て、すっかりクラシックの虜になった。ブーニンの演奏は聴いたことあるかい?」
「ないわ」
私は正直に答えた。
「それは残念だ。一度聴いてみるといいよ。オススメはやっぱり、ブーニンが優勝したショパンコンクールのライブCDだ」
「覚えておく」
私の返答に、亀井さんは満足げに頷いた。
メインの料理が運ばれてきた頃、彼は二曲目の演奏を始めた。
曲目は夜想曲第8番。別名「貴婦人のノクターン」と呼ばれる甘く美しい曲想だ。
今度は先程と打って変わって、とてもロマンチックな曲を演奏し出したので、私は驚きを隠せなかった。
しかも彼の作り出す音が、甘く官能的で危険な色気すら漂わせていたのだから、驚きは更に増した。
私は、黒トリュフが散りばめられている美味しそうな牛ヒレ肉から目を逸らし、初めてピアニストの顔を見た。
……衝撃が私を襲った。
彼は美しすぎた。そして、驚くほど若かった。恐らく二十五歳前後だろう、演奏技術から年増の男を想像していただけに、私と変わらないくらいの年齢と思われる顔立ちに驚きはひとしおだった。
一曲目の印象が強すぎて、何者も近付けさせない冷たくクールな男を想像していたのだが、彼の顔立ちはとても甘かった。
癖のある黒髪に、薄茶色の瞳。
すっと伸びた高い鼻と薄い唇。何万人もの女性を一瞬で虜にさせられる程、彼の顔は整っていた。小さな顔のせいか、顔立ちは童顔で少し幼く見えるが、雰囲気はとても色気がある。
「ないわ」
私は正直に答えた。
「それは残念だ。一度聴いてみるといいよ。オススメはやっぱり、ブーニンが優勝したショパンコンクールのライブCDだ」
「覚えておく」
私の返答に、亀井さんは満足げに頷いた。
メインの料理が運ばれてきた頃、彼は二曲目の演奏を始めた。
曲目は夜想曲第8番。別名「貴婦人のノクターン」と呼ばれる甘く美しい曲想だ。
今度は先程と打って変わって、とてもロマンチックな曲を演奏し出したので、私は驚きを隠せなかった。
しかも彼の作り出す音が、甘く官能的で危険な色気すら漂わせていたのだから、驚きは更に増した。
私は、黒トリュフが散りばめられている美味しそうな牛ヒレ肉から目を逸らし、初めてピアニストの顔を見た。
……衝撃が私を襲った。
彼は美しすぎた。そして、驚くほど若かった。恐らく二十五歳前後だろう、演奏技術から年増の男を想像していただけに、私と変わらないくらいの年齢と思われる顔立ちに驚きはひとしおだった。
一曲目の印象が強すぎて、何者も近付けさせない冷たくクールな男を想像していたのだが、彼の顔立ちはとても甘かった。
癖のある黒髪に、薄茶色の瞳。
すっと伸びた高い鼻と薄い唇。何万人もの女性を一瞬で虜にさせられる程、彼の顔は整っていた。小さな顔のせいか、顔立ちは童顔で少し幼く見えるが、雰囲気はとても色気がある。