ショパンの指先
しかし、その美しい顔立ちよりも私の眼を釘づけにしたのは、筋張った大きな手だった。

指が一本一本長く、鍵盤の上を縦横無尽に駆け巡っている。

片手でバスケットボールが掴めるのではないかと思うほどの大きさだ。

彼の指は、まるで女性の白い肌を撫でるように、鍵盤に指を落としていた。

あの長く筋張った指先で身体を触れられたら、どんな風になってしまうのだろう。

あの長い指は、いとも簡単に膣奥に届くに違いない。

あの白い鍵盤をタッチしている指の腹で、私の充血した突起を触られたらどんなに気持ちがいいだろう。あの速い指先で弄られたらすぐに達してしまうかもしれない。

私の頭は淫らな想像でいっぱいになった。

ふと周りを見渡すと、レストランの客の半分近くが女性客だった。

しかも、女性同士で来ているのが圧倒的に多い。そして皆、麗しいピアニストを潤んだ瞳で見つめている。

彼女たちも彼に触れられて、ピアノの音色のように自分が鳴かされることを想像し、ショーツを濡らしているのかもしれない。

現に私は、まだ誰にも触れられていないというのに、お腹の奥が熱くてたまらない。

「官能的だろう? 彼の曲を聴いた女はその晩とても大胆になるらしい。女性の性感を刺激する音色なのかもしれないな」

亀井さんは、肉汁したたる牛ヒレ肉を口の中に運ばせた。

口から溢れ出た肉汁が唇をてからせる。亀井さんはよく味わうように、頬の筋肉を十分に使って口をゆっくりと動かした。じゅくじゅくという音がいやらしい。

亀井さんは一つ勘違いをしている。
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