ショパンの指先
荒い息遣いを上げながら、洵は私の服を脱がしていく。

シャツのボタンを外して、指先を服の中に侵入させた。冷たい指先の感触がお腹を伝う。そして洵の指先は背中にまわり、器用にブラジャーのホックを外した。

そして勢いよく私の乳房を揉み上げる。洵の長い指先が、私の胸の先端を弄ぶ。いつもピアノを演奏しているせいか、洵の指先は繊細な動きを事もなげにしてのける。初めて経験する指先の愛撫に腰がくだけてしまう。指先が焦らすように、上へ下へと擦られると堪らず声が零れた。

「洵……」

 吐息混じりに訴えかける。焦らされすぎて、頭がおかしくなりそうだった。

「なに?」

 分かっているくせに、洵はいやらしく問いかける。

「もう…私……」
「ここは玄関だ。ベッドは奥にある」

そこでようやく、周りを見渡した。そうだ、ここはまだ玄関だ。玄関でこんなことしていちゃいけない。

 ドアにもたれかかって立てなくなっている私を、洵は横向きにひょいと抱きあげた。

「ちょっと、洵!」

いわゆるお姫様抱っこに、私は恥ずかしくなって抗議の声を上げた。私はお姫様抱っこに憧れるような歳でもないしキャラでもなかった。どちらかといえば、そんなことをされて喜んでいる恋人たちを冷めた目で見るような可愛げのない女だ。それなのに、耳まで真っ赤に染めて恥ずかしがっている私を見て洵が屈託のない笑顔を見せるから、私は拒む気力を失ってしまった。

……その笑顔ずるい。
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