ショパンの指先
洵の後に続いて寝室を出る。リビングまでほんの少しの距離なのに、手を繋いで歩いた。幸せすぎて、自然と笑顔が零れる。
洵はピアノの椅子に座ると、私も隣に座るよう促した。狭いけれど、狭いからこそいい。洵の肩に頭を乗せて、洵の指先を見つめる。洵は綺麗な長い指先で鍵盤を撫でるように弾いた。この指先が、さっきまで私の中をかき回していたのだと思うと、甘美な気分になる。
「うん、大丈夫だ。弾ける」
洵は満足気に頷いた。
「ピアノを弾けなかったって聞いたけど、本当だったの?」
「ああ」
「どうして?」
「杏樹と会えなかったから」
「私が原因なの!?」
「いや、たぶんそれは引き金でしかないだろうな。色々なことが積み重なっていて、いつ弾けなくなってもおかしくない状態だったのだと思う」
「ねぇ、聞いてもいい? 洵の過去のこと」
洵は斜め下を向いて、肩に寄りかかっていた私の目を見つめた。
「いいよ。その代わり、杏樹も教えて」
「私の過去を聞いたら、きっと軽蔑するわ」
「それを言うなら、俺の過去の方が軽蔑すると思うぞ」
「私は洵が、例え人殺しだったって私の気持ちは変わらない」
「俺も変わらない」
「私は洵の全てを受け入れたい」
「俺もだ」
私は大きく深呼吸をして、自分の過去を話すことにした。私から洵の過去を聞きたいと言ったのだから、まずは自分が包み隠さず話すことが礼儀だと思ったからだ。
洵はピアノの椅子に座ると、私も隣に座るよう促した。狭いけれど、狭いからこそいい。洵の肩に頭を乗せて、洵の指先を見つめる。洵は綺麗な長い指先で鍵盤を撫でるように弾いた。この指先が、さっきまで私の中をかき回していたのだと思うと、甘美な気分になる。
「うん、大丈夫だ。弾ける」
洵は満足気に頷いた。
「ピアノを弾けなかったって聞いたけど、本当だったの?」
「ああ」
「どうして?」
「杏樹と会えなかったから」
「私が原因なの!?」
「いや、たぶんそれは引き金でしかないだろうな。色々なことが積み重なっていて、いつ弾けなくなってもおかしくない状態だったのだと思う」
「ねぇ、聞いてもいい? 洵の過去のこと」
洵は斜め下を向いて、肩に寄りかかっていた私の目を見つめた。
「いいよ。その代わり、杏樹も教えて」
「私の過去を聞いたら、きっと軽蔑するわ」
「それを言うなら、俺の過去の方が軽蔑すると思うぞ」
「私は洵が、例え人殺しだったって私の気持ちは変わらない」
「俺も変わらない」
「私は洵の全てを受け入れたい」
「俺もだ」
私は大きく深呼吸をして、自分の過去を話すことにした。私から洵の過去を聞きたいと言ったのだから、まずは自分が包み隠さず話すことが礼儀だと思ったからだ。