ショパンの指先
母のこと、死んだと思っていた父のこと、母の恋人のこと、先生のこと、そして有村のこと。有村から斡旋されて娼婦のようなことしていたことを話すのは、さすがに胸が苦しかった。話しながらなんて馬鹿なことをしていたのだろうと思った。
私が話し終わると、今度は洵が話し出した。お母さんのこと、遠子さんとの関係についても。お母さんが亡くなってからも、洵も気付かぬ間に遠子さんに縛られ続けていたことが分かり、洵がいつも初めに弾く革命のエチュードがなぜあんなにも息苦しく聴こえるのかが分かった。
お母さんと遠子さんは、決して洵を縛り付け苦しめようとしていたわけじゃない。ただ純粋に洵のことを愛していたのだ。それが分かるからこそ、洵は二人に感謝しているし恋愛感情とは違うけれど愛情もある。
ひたむきな愛は、時に人を傷つけ、縛り、苦しめ続けることもあるのだと知った。洵を苦しめていたと知ったら二人はとても悲しむだろう。だから愛は時に、残酷なのだ。
お互いのことを話し終えると、心はより親密になっていた。母を殺したのは自分だと自らを責めて罪を背負い、がんじがらめになりながら生きてきた洵。洵は自分のことを弱く最低な男だと思っているようだけれど、真っ直ぐで純粋な心の優しい男だと思った。以前よりも愛おしさが増していた。
「ねえ洵、なにか弾いて。私たちが結ばれた記念に、ふさわしい曲を」
私は洵に身体を寄せながら甘えた。すると洵は小首を傾げながら天井を見上げ、考え出した。洵の仕草一つ一つが愛しくて、私は食い入るように洵を見つめていた。
「これだな。雨だれのプレリュード」
そう言って洵は優しい音色を奏で始めた。
雨だれのプレリュード。とても有名な曲だ。この曲はショパンの恋人のジョルジュ・サンドとマジョルカ島に療養もかねて愛の逃避行をした際作られた作品といわれている。恋人との愛が最大限に盛り上がっている時期に作られたこの作品は、とても美しく甘い曲だ。しかしその一方で、崩れそうな哀しさも含まれている。それはまるで、この先に待つサンドとの悲しい別れを予感しているかのようだ。
私が話し終わると、今度は洵が話し出した。お母さんのこと、遠子さんとの関係についても。お母さんが亡くなってからも、洵も気付かぬ間に遠子さんに縛られ続けていたことが分かり、洵がいつも初めに弾く革命のエチュードがなぜあんなにも息苦しく聴こえるのかが分かった。
お母さんと遠子さんは、決して洵を縛り付け苦しめようとしていたわけじゃない。ただ純粋に洵のことを愛していたのだ。それが分かるからこそ、洵は二人に感謝しているし恋愛感情とは違うけれど愛情もある。
ひたむきな愛は、時に人を傷つけ、縛り、苦しめ続けることもあるのだと知った。洵を苦しめていたと知ったら二人はとても悲しむだろう。だから愛は時に、残酷なのだ。
お互いのことを話し終えると、心はより親密になっていた。母を殺したのは自分だと自らを責めて罪を背負い、がんじがらめになりながら生きてきた洵。洵は自分のことを弱く最低な男だと思っているようだけれど、真っ直ぐで純粋な心の優しい男だと思った。以前よりも愛おしさが増していた。
「ねえ洵、なにか弾いて。私たちが結ばれた記念に、ふさわしい曲を」
私は洵に身体を寄せながら甘えた。すると洵は小首を傾げながら天井を見上げ、考え出した。洵の仕草一つ一つが愛しくて、私は食い入るように洵を見つめていた。
「これだな。雨だれのプレリュード」
そう言って洵は優しい音色を奏で始めた。
雨だれのプレリュード。とても有名な曲だ。この曲はショパンの恋人のジョルジュ・サンドとマジョルカ島に療養もかねて愛の逃避行をした際作られた作品といわれている。恋人との愛が最大限に盛り上がっている時期に作られたこの作品は、とても美しく甘い曲だ。しかしその一方で、崩れそうな哀しさも含まれている。それはまるで、この先に待つサンドとの悲しい別れを予感しているかのようだ。