ショパンの指先
洵が腰を動かすたびに、ピアノの音と私の喘ぎ声が部屋の中に響き渡る。ピアノの不協和音や、鍵盤の上に乗っているというシチュエーションに余計に興奮した。洵は私の膣奥をガンガンと容赦なく突き上げる。擦れる痛みすら快感に変わって、もっともっとと訴えかける。

 洵と私は一つになった。とろけるような一夜だった。

 その後、ぐったりとして身体に力が入らない私を抱き抱えてベッドに連れていってくれた。洵に腕枕され、胸板に顔を埋め抱きしめながら再び眠った。洵の身体と香りに包まれて、私はこれまでで一番の至福の時間を過ごしていた。

 この幸せがずっと続くと思っていた。目が覚めたら洵がいて、私に優しい笑顔を向けてくれて、好きだよって言ってくれると思っていた。

当たり前のように、いつも隣には洵がいて、洵の演奏を聴きながら絵を描いたりして。馬鹿みたいに笑い合ったり、セックスを覚えたての思春期の学生みたいに行為に明け暮れて、時々喧嘩をしたりしても、キスの一つで許してしまったり。

そんなどこにでもいる恋人たちのような日々が待っているのだと思っていた。明日も洵に「好き」と伝えられると思っていた。


 ――目が覚めると、洵はいなくなっていた。

 置き手紙も別れの言葉も残さずに、洵は消えた。




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