ショパンの指先
亀井さんは地下一階からエレベーターに乗り、三十一階のボタンを押した。

エレベーター内に縦に並んでいるボタンは三十一以上の数字はなく、この階が最上階だということが分かる。

ホテルの部屋を取るのは有村の仕事だ。

有村が用意したホテルの部屋で、今日の客がどのくらい上客なのかが分かる。

私は今から有村が用意した最上階のホテルの一室で、今日初めて会った亀井さんと寝るが、私は風俗嬢ではない。

私は亀井さんからお金を貰わない。亀井さんも私と寝た謝礼を有村に支払うわけではない。

これは接待だ。

有村の言葉で言えば「貴族の接待」らしい。

なにが貴族だ、成り上がりのくせに、と思うけれど、突っかかったりはしない。

私は有村デザインコーポレーションの社員で、ほとんど会社に行かない代わりに、この接待によって給料を貰っている。

そして亀井さんは、有村イラストデザインコーポレーションの取引先の社長。

しかも、有村が用意した部屋を見る限り、とびきりの上客らしい。

私も気合いが入るというものだ。まあ、ほんの少しだけ。

亀井さんが、ホテルのカードキーを取り出し部屋を開けた。

だてに最上階に部屋を構えているわけではなかった。

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