ショパンの指先
 必死に虚勢を張り、手は携帯を探していた。

「何しにってここは俺の名義の部屋だ。俺がいつ来ようが俺の勝手だろ」

 有村はいつもの癪に障る笑い方をしながら、人差し指を鍵についている丸い金具のホルダーに入れ、器用にくるくる回していた。

「その鍵、この部屋の鍵ね。どうしてあなたが持っているの」
「だからこの部屋は俺の名義だ。合鍵くらいすぐ作れるさ」

 話をして気を逸らせながら、手を背中にまわして携帯のボタンを操った。見えないから上手く押せない。

「おい、何している」

 有村は私の手をぐいと引っ張った。携帯を持っていた手が前に出される。

「警察を呼ぶの」

 私は有村を睨みつけた。

「警察? 呼んでどうする。本当のことを説明したらお前も捕まるんだぞ」
「それでもいい」
「呼びたければ呼べよ。呼べるもんならな」


 有村は床に私を押し倒した。馬乗りになって凄い力で私の両手首を抑えている。
「離してっ! これ以上なにかしたら全部バラすわよ! あんたは捕まるし、会社も潰れる! それでもいいの!?」
「うるせぇ!」

 有村は私の頬を平手打ちした。容赦がない力だった。

 どんなに足掻いても有村は力付くで、私を押し付け、逃げる隙を与えてくれない。男と女の力の差はこんなにもあるのかと愕然とした。

 犯される。私の唇は恐怖に慄いていた。
< 152 / 223 >

この作品をシェア

pagetop