ショパンの指先
「遠子さんだって私と洵の何を知っているのよ! それに洵はピアノを辞めたりしない。どこかできっとピアノを弾いているわ」
それは、確信があって言った言葉ではなかった。そうであって欲しいと願う気持ちから発せられた言葉だった。すると遠子さんはこれみよがしに大きなため息を吐いて言った。
「これだけは心に刻んでおいて。あなたは洵のショパンコンクールに出場できる道を奪ったの。ショパンコンクールは5年に一回しか開催されないし、年齢制限もある。洵にはラストチャンスだったの。あなたはそれを奪ったのよ」
そう言って遠子さんは店を出て行った。後悔なんてしないと啖呵を切ったけれど、最後の遠子さんの言葉は、ズシリと重くのしかかった。遠子さんの言葉は、何から何まで全てが真実だった。洵は私を抱いたらピアノが弾けなくなると言っていたのに、私は欲望に任せて激しく抱き合った。いつもそうだ。私は将来のことなどまるで考えず、その時楽しいこと、楽なことを選んでしまう。そうして気付かぬうちに自ら首を絞めていて、後で大変なことになる。
分かっている。私には洵の夢を奪う価値なんてない女だ。でも……。
でもやっぱり私にはどうしても、洵と出会えたことを後悔なんてできなかった。どんなに自分を責めたって、あの夜のことを悪く思えない。私の人生で一番輝いていた瞬間だった。キラキラ輝く宝石のような一夜だった。遠子さんの言葉を理解しつつも、やっぱり最後は泣きながら叫んだあの言葉に気持ちは集約される。
後悔なんてできない。洵と出会えたことは、私にとって最高の思い出だ。どんなに批判されても責められても、これだけは変わらない。
でも、私を抱いたことによって、洵の夢が途絶えたこともまた、事実だった。
それは、確信があって言った言葉ではなかった。そうであって欲しいと願う気持ちから発せられた言葉だった。すると遠子さんはこれみよがしに大きなため息を吐いて言った。
「これだけは心に刻んでおいて。あなたは洵のショパンコンクールに出場できる道を奪ったの。ショパンコンクールは5年に一回しか開催されないし、年齢制限もある。洵にはラストチャンスだったの。あなたはそれを奪ったのよ」
そう言って遠子さんは店を出て行った。後悔なんてしないと啖呵を切ったけれど、最後の遠子さんの言葉は、ズシリと重くのしかかった。遠子さんの言葉は、何から何まで全てが真実だった。洵は私を抱いたらピアノが弾けなくなると言っていたのに、私は欲望に任せて激しく抱き合った。いつもそうだ。私は将来のことなどまるで考えず、その時楽しいこと、楽なことを選んでしまう。そうして気付かぬうちに自ら首を絞めていて、後で大変なことになる。
分かっている。私には洵の夢を奪う価値なんてない女だ。でも……。
でもやっぱり私にはどうしても、洵と出会えたことを後悔なんてできなかった。どんなに自分を責めたって、あの夜のことを悪く思えない。私の人生で一番輝いていた瞬間だった。キラキラ輝く宝石のような一夜だった。遠子さんの言葉を理解しつつも、やっぱり最後は泣きながら叫んだあの言葉に気持ちは集約される。
後悔なんてできない。洵と出会えたことは、私にとって最高の思い出だ。どんなに批判されても責められても、これだけは変わらない。
でも、私を抱いたことによって、洵の夢が途絶えたこともまた、事実だった。