ショパンの指先
私はアマービレを出て、目的もなくただ歩いた。

 空を見上げると夕焼け色に染まっていた。赤。私の一番好きな色。

 こんなに悲しいのに、空はなんて綺麗なのだろう。断層に重なる雲に色をつけて、赤のグラデーションを作っている。燃えるような赤、情熱の赤。

 美しさが染み入るように心に入ってくる。美しさと切なさは、ある意味では一つなのかもしれない。そうでなければ、こんなにしっくりと自分の感情と重なったりはしないだろう。

 ノクターン第13番。この夕日に一番似合う曲だ。

 あまりにも美しいメロディは、痛切なまでに心を揺さぶる。静かに流れる雲のように、ゆっくりと穏やかに曲は進んでいく。悲痛なまでに美しく惹きよせられるハーモニーは、自然と頬を涙で濡らす。

「洵……どこにいるの?」

 小さく零れた言葉は、問いかけた相手には届かないだろう。

「もう、会えないの?」

 夕日に染まるシグナルレッド色の空は、なにも答えてはくれなかった。

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