ショパンの指先
 筆につけたスカーレット色の絵の具がキャンパスに叩きつけるように重ねられた時、幻想即興曲のピアノの音色が跳ね上がるように大きく鳴った。

加速するリズムに合わせるように、筆を動かす私の手にも力が入る。

バーミリオン色とボルドー色を合わせ、キャンパスに勢いよく塗っていく。

それは、魂が溶けあうような作業だった。

やがて、ゆったりと心地よくなっていったメロディーは、私を異空間に浮遊させるように現実との境界線を曖昧にしていく。

ここがどこで、自分が誰なのか分からない程のめり込んだ時、私の作品は面白いように進むのだ。

スピーカーから溢れ出るピアノの音色は、いつしか終盤にさし掛かっていた。

そして、私の集中力もこと切れる。

油絵独特の強烈な匂いに包まれながら、私は倒れ込むように冷たい床に横たわった。

頬に伝わるひんやりとしたフローリングの感触が心地いい。

火照った身体を床に押し付けて、ゆっくりと頭の回転を緩め現実に慣れさせる。

神経の高ぶりを頭の先からお腹に押し込めるようにとどめると、私は意識してゆっくりまばたきをした。

白い天井が目に映る。

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