ショパンの指先
洵はそれから色んなショパンを弾いてくれた。

 情熱的な曲。綺麗な曲。悲しい曲。

 どの曲も素晴らしかった。

 私はその曲に合わせて絵を描く。

 その曲から感じ取ったものを絵で表現するのだ。

時々、洵は上からスケッチブックを覗いて感心した表情を見せたりした。

 何もない、この無機質な部屋が、一面の野原畑にいるような気分になるのだから不思議だ。

洵の演奏は、洵自身を表していた。

 全てが洵の内側から放たれる感情で、その澄み渡る綺麗な音も、溢れ出る情熱も、全て洵を表している。

だから、洵の演奏は不思議な魅力を持っている。

洵自身に強烈な色気があるのと同様に、曲も官能的な男の色気に満ちている。

ロマンチックな曲なんて弾かせたら、聴いている方としてはたまらない。洵の指先で私の身体を触るところを想像してムラムラしてしまう。

私は4曲目が終わったと同時に立ち上がり、洵と鍵盤の間に立ち塞がった。

「どうした?」

洵は不思議そうな顔で私を見上げる。

私は目の前で上着を脱ぎ、私の上半身はブラジャー一枚となった。

胸の谷間が鼓動で揺れる。

私は洵を真っ直ぐに見つめた。

キスしようと顔を近付けると、長い指先で唇を止められた。

私は唇に触れられた指先を見下ろすと、その指先を舌でなぞった。

私の口が洵の指先を包み込む。
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