ショパンの指先
朝、目覚めると私はカーペットの上に横になっていた。

そしていつの間にか毛布もかけられている。

目をこすりながら立ち上がると、ピアノの上に鍵と一枚のメモ書きが置いてあった。

『鍵を閉めたら玄関ポストに入れておけ』

達筆な字だった。

洵の姿を探すも、どこにもいない。

見ず知らずの女を家に置いて出掛けるなんて、なんて不用心なのだろうと思ったけれど、盗めそうな物なんてなかった。もちろん、あったとしても盗む気はない。

私は部屋を出て、鍵を閉め、一瞬悪魔の声が『合鍵作っちゃえば?』と囁いたけれど、頭をぶんぶん振って悪魔を追い出し、洵のメモ書き通りに鍵を玄関ポストに入れた。

カタン、と音がした。少しだけ、寂しくなった。

夢のような一夜だった。

眠りにつくまで一緒にいたはずなのに、また会いたくなっている。

こんな気持ち、初めてだった。

うたた寝のように、中途半端な眠り方をしてしまったので、家に着いたら真っ先にベッドに横になった。

深い眠りが手招きする。

枕に顔を沈めながら、洵を思い出して眠った。

洵がエオリアンハーブを弾いている。

私たちは一面の野原に座り込みながら、洵はピアノを弾き、私は絵を描いている。

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