ショパンの指先
アマービレを出て、家に着いたのが23時40分。

それからお風呂に入って、ベッドに潜り込んだのが1時だった。そしてそれから1時間、なかなか眠りにつけなくて、ようやくまどろみの中に落ちていく所で、玄関のチャイムが鳴った。

眠りを妨げられるのは嫌いだ。それに、こんな時間に家を訪問する奴なんて一人しかいない。

だから私は無視を決め込んだ。面倒臭いことは、明日に回せばいい。

チャイムをいくら鳴らしても出てこないことが分かると、今度はドアを叩き出した。

最初は拳で叩くように。最後はドアを蹴破ろうとしているかのようだった。

私は目が冴えてきてしまって、仕方なく起きた。ドアを壊されたら、たまったものじゃない。

そしてあいつは、放っておけば本当にドアを蹴破る男だ。

「なに?」

 私はパジャマにガウンを羽織って、玄関を開けた。

 ドアを蹴ろうとしていた有村の動きが止まり、顔を上げる。

 細身の割に筋肉質で長身の有村は、私を見ると彼特有の笑みを見せた。

 黙っていればイケメンと言われる有村の年齢は、今年で33歳。雑誌に取り上げられる時はいつも、イケメンデザイナーと紹介されている。
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