ショパンの指先
確かに雑誌に掲載された写真は……、写真だけ見るならばかっこいい部類に入ると思う。

 しかし、生で見ると少し様子が異なる。

 顔のパーツは整っているが、雰囲気が独特なのだ。どんな風に独特なのかというと、雰囲気がどこか陰気くさい。それと有村にはもう一つ、彼特有の笑みがある。薄い唇の右端だけをちょっと上げる笑い方だ。

 その笑みは、人を小バカにしているようで、非常に腹が立つ。有村の性格上、人を見下している所があるので、実際にバカにしているのだろう。

 今まさに、その笑い方をされたので、私は開けたばかりのドアを閉めたくなった。

「俺が来た理由、分かっているだろう?」

 もちろん分かっている。客を怒らせた件だ。

 私はうんざりして、大きなため息を吐いた。

「ごめんなさい」
「本当に悪いと思っているか? 違うな、杏樹は全く反省していない」
「反省しているわ」
「反省しているなら、すぐにドアを開けるだろう」
「寝ていたのよ」
「それにしては来るのが遅い」
「……分かったわ。入って」

 不毛なやり取りになりそうだったので、私は諦めて有村を部屋に入れた。

 有村を部屋に入れれば、どんな展開になるのか分かっていた。分かっていたからこそ、会いたくなかった。

 有村はニヤリと口元を綻ばせた。あの癪に障る笑い方だ。
 
 リビングに入ると、有村は我が物顔で椅子に腰深く座り、コキコキと首を鳴らした。
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