ショパンの指先
視界が布で塞がれる。こめかみがぎゅっときつくなって、頭の後ろで布がしっかりと結ばれたことが分かった。

私はすでに全裸にされ、ベッドに横たわっている。有村の手が私の両手を上へ持ち上げ、アイアン調のヘッドボードに両手をくくりつけ固定された。

手首を動かすと、ギュッギュッと締め付ける音がする。有村は今、どんな瞳で私を見下ろしているのだろう。

全ての行為が優しくなかった。

そこには、私の身体への配慮はない。ただ欲望をぶつけられている、そんなかんじだった。

「杏樹はアマービレのピアニストに惚れているらしいな」

 有村の声が、冷たい響きを含んで落ちてきた。

「別に、そういうわけじゃない」
「珍しくレストランを指名してきたのには、そんな下心があったのか」
「下心っていうか……。ただ、いいピアノを弾くから気に入っているだけ」
「気に入っている?」

 有村の声に、怒りが込められているのを感じとり、しまったと思った。

「杏樹は俺のものだ。誰のおかげで生活できていると思っているんだ?」

 ボールを掴むように、乳房が強く握られた。

「痛っ」
「杏樹に絵を教えたのは、誰だ?」

 有村の爪が食い込んでくる。私が痛がっても、手の力を弱めてくれる様子はない。

「俺がいなかったら、杏樹は絵を描けないんだぞ。分かっているのか?」
「分かっている! 痛いからやめて!」
「面倒くさがりの杏樹が社会で生きていくなんて無理だ。俺がいなければ、杏樹はすぐに会社をクビになっていた。どこに行ったって同じだ。杏樹が社会に迎合することはあり得ない」
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