ショパンの指先
前の時はストーカーとか言われても別に気にならなかった。迷惑なんて考えもせずに、自分の思いだけで行動ができた。

 でも今は……。
 今はあの時と想いが違う。洵に対する想いが違う。見方も違う。

 気付いてしまった。自分の気持ち。洵に会って、洵と話して確信した。

 私は洵が好きなのだろう。

 きっとこれが好きという感情なのだ。

 あまりにも遅い初恋に、自分自身どうしていいか分からなかった。

 数歩進んだところで洵が振り返る。

 洵と目線が重なって、胸がドクンと高鳴った。

 緊張で身体が強張る。何か話さなきゃと思っても言葉が出てこない。

「なんて顔で見ている」

 洵が困ったような顔で苦笑いをした。

 なんて顔? 私、どんな顔している?

「そんな捨て猫みたいな目で見られたら、放っておけないし」

 洵が呆れたような顔して、進んだ距離を戻ってくる。

 洵は私の目の前に立って、私を見下ろした。

 私は女にしては背が高い方だけれど、洵は更に高いので見上げてしまう。家から慌てて出てきたので、ヒールの高い靴を履いてこなかったせいもあるかもしれない。

 洵の指先が私の頬に触れた。

「冷たいな。冷え切っている」

 洵の指の腹が気持ちいい。

 もっと触れてほしい。もっと触れたい。

「最近店に来ないからさ、ちょっと心配していた。連れの男、怒っていただろ」
「ああ、あれは……。もう大丈夫」

 私の声のトーンが落ちたのを、洵は見過ごさなかった。

「どうした? 何かあったのか?」
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